私の信念である

 何事かを成さんとすれば、他の事を犠牲にせねばならぬ場合もあらう。しかし、事、「生活」に関しては、何事も犠牲にしてはならぬといふのが、私の信念である。さもなくてさへ隙間だらけの現在の私たちの生活に、どこかへ力を入れすぎる危険は、すべてをあるがまゝにしておく危険とほゞおなじである。その意味に於て、一時やかましく云はれた「生活」の科学化とか合理化とかにも、うつかり賛成はしなかつたのである。 人間らしい生活のすがたは、ほんとに人間を知り、人間を愛し、そして、人間尊重の精神に徹したもののみが、よく描き得るイメージである。私たちは、先づ、そのイメージが描けるやうにならねばならず、また、なりたいものである。それは、「理想生活」そのものではないかもしれぬ。しかし、「生活の美しさ」とは、人間の宿命をはらんで、ひたむきに幸福を追求する努力と苦しみとの表現であらう。それは、時として可憐であり、時として、厳粛なものでもある。おなじ造形と色彩の世界も、実生活の領域にあつては、現代の悩みと無関係な「美」がほんたうにわれわれを魅する道理はないのである。

 この雑誌がどういふ批評を受けるにしろ、私は、編集者の意図が正しいものであることを信じ、その意図が正しく反映する限り、この雑誌の果す使命は大きいと思ふ。たゞ、私には、「美しい暮し」についての具体的な名案もないまゝに、坪田さんの感想を借りて私の日頃の考へを述べた。決して他意はないのである。

— posted by id at 02:24 pm  

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